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2006年9月 5日 (火)

萬福楼

評価 8

入店日時 平成18年9月5日(火)午後9時頃  過去入店回数 なし

今夜は1人で会社の帰りにどこで食事しようか考える。1人で食事するのは好きだ。それも馴染みの店なんかでがなく、初めての店に行くのが好きだ。 店のドアを開ける。一見してよそ者の訪問に店主は警戒の様子を隠さない。そういう時は躊躇せず店主の前にドカッと座り、おもむろに「おい親父。俺を唸らせてみろ。」と言う。店主の顔がいくらか紅潮し、「へ、へいお待ちを。」と上ずった声で答える...。なんて感じだ。ま、実際はこっちが緊張して、「あのー、何が美味しいんですかあ?」なんて甘ったれた声で聞き、店主に「うちにマズいものなんてないわい。」なんて言われてカウンターの下に隠れたくなったりするのだ。 が、そういった緊張感は心地がいい。以前仕事で日本全国を車で回っていた時、今でも記憶に新しい鮮烈な思い出が3つある。 

旭川で寿司に入った。もちろん1人だ。その店にはメニューがなかったので、当然店主に何があるのか聞くことになる。「さんま。」 ぶっきら棒に店主は言った。一瞬耳を疑った。「さ、さんま? おいおい、わざわざ北海道まで来て『さんま』はないだろう。八角とかウニとかホッケとか、ここでしか食えないものが腐るほどあるだろう。なのに...。オレは舐められてるのか。」と思ったものだ。そんな心中を量るように店主は追い討ちをかけた。「あとはキノコだね。」 「な、キノコ? 寿司屋で、それも北海道の寿司屋でキノコだとお?」 しかし結果的にその「さんまとキノコ」は今でも忘れることのない、舌に鮮烈な記憶を残したのだ。

舞鶴を次の目的地へと走っていたとき、国道沿いの何の変哲もない食堂に入った。「刺身定食」を頼んで驚いた。ボタン海老がこんもりと緑の卵を抱えて出てきたのだ。「ボ、ボタン海老。800円の刺身定食に卵付きボタン海老、うう。」 その白く柔らかな身と、鮮やかなミントグリーン色の卵を食べた時の上品で甘い味わいは今も忘れていない。

前の仕事が押して、松江に深夜到着した時のこと。宍道湖に掛かる橋の袂に居酒屋がまだ営業していた。カウンターのガラスケースに「岩牡蠣」が見えた。深夜の見慣れない客に店主は明かに緊張していた。他に客はいない。「岩牡蠣。」 ビールを注文する前に言った。「い、へ、へい。」 店主が鮮やかに牡蠣の殻を剥いた。そのぷっくらした身を一口に頬張った時の恍惚の一瞬を今も忘れていない。思わず追加注文していた。「もう一個。」 「も、へ、へい。」 「うまいな、親父。」 「へい、山陰の夏の岩牡蠣は冬の牡蠣とは比べものになりません。」 親父は嬉しそうに言った。

旅の記憶はいつも舌に残る。所詮寺院とか古刹なんて見たって、「ほほう。」でおしまいなのだ。数秒後には写真をとるのに忙しかったりお土産なんかを探している。所詮はそんなものだ。

で、そんなことを考えながら、南風原に向かった。津嘉山に気になっていた中華料理屋があるのだ。店頭に車を止めて店に入ると他に客はいなかった。店主が座敷で生ビールを飲みながらテレビを見ている。「外れたかな。」 直感でそう思った。やる気がない。何の変哲もないさえない町のラーメン屋だ。そう見えた。 が、メニューを見た次の瞬間衝撃が走った。「伊勢海老」「車えび」...。本格中華なのだ。「う、1人で来る店ではない。」 そう思った。料理の種類も多い。 1人で食べる料理というと、自ずと丼系かラーメンということになる。『ラフテー丼』に星印が付いている。お勧めということらしい。「ラフテー丼。それと水餃子。」 動揺を隠しながら愛想のいい奥さんに言う。 すると奥さんは壁に貼ってある「当店自慢の人気メニューベスト5」を指差しながら、「ワンタンスープも美味しいわよ。初めででしょ、フフッ。」と笑った。勧められるがままにワンタンスープとラフテー丼を頼んでから、よくその『ベスト5』を見ると、なんと1位にラフテー丼とある。2位がワンタンスープだ。 じゃあこれが美味しくなければこの店はダメだな、なんて思いながらテレビをボッと眺めていた。静かだ。いや、静か過ぎる。10分しても厨房から全く物音が聞こえてこないので、心配になってそっと覗いて見た。どうやら熱心にワンタンに具を包んでいるようだ。「客が来ないんじゃ、作り置きなんてできないしなあ。」 1人納得してまたテレビを見ていると、ようやく料理が運ばれてきた。自家製という豆板醤と黒酢を好みでワンタンにつけて食べるらしい。一口スープを啜ってみる。「ウォッ!」 次の瞬間、この店がただのラーメン屋じゃないことを知った。本場の味なのだ。日本人にはこの味は作れない。

自慢ではないが、中華料理にはかなりウルサいつもりだ。実家が横浜だし、中華街だって数え切れない位通っている。隠れた名店をいくつも知っているし、シンガポール、香港、台湾の店だって行った数は10や20ではない。なのにここのワンタンスープときたらどうだ。それら本場で名店と言われる味を凌駕する味なのだ。ホントに美味しい。これ以上のワンタンスープを食べたことがない。ワンタンと言うより実際は水餃子に近いのだが、具がたっぷり詰まっていて干し海老の香ばしい味わいがスゴい。「何なんだ。この店は...。」 呆然としながら店内を見渡してみる。雑誌の切り抜きがテーブル脇にスクラップされている。壁にも貼ってある。 「ん?!」 『ニューヨークのチャイナタウンでナンバー2の料理人 !』『2000年九州・沖縄サミットで中華総料理長』『ブセナテラス元総料理長』 どうやらここの主人は伝説の料理人らしい。何なんだ。「そんな輝かしい経歴を持った人がどうして?」 言っちゃ悪いが、何故こんなさえない場所でさえない店を出しているのか...。 読み進んで納得した。戦後からここの主人は、宜野湾で米軍を相手にした中華料理店を25年間も営業していたらしい。『Aサイン』の看板もあったという。 その店を火事で失い、途方に暮れていたところにサミットの話が舞い込んできたらしい。かなり波乱万丈だ。 しかし来年は平和通りに2号店を出店するとのことだから、まあ今は順調なのだろう。

ラフテー丼。綺麗な黒いテリを放ったラフテーが2枚、丼の中央に鎮座している。箸をつける。旨い。ラフテーというより東坡肉だと思うが、そんなことはどうでもいい。肉も旨いがレタスとともにご飯の上に掛かっている黒いタレがまた美味しい。丼を食い、ワンタンを食べ、また丼を食う。あっという間に両方とも食べてしまった。この組み合わせも良かった。

帰る頃には客が2組立て続けに入ってきた。美味しい店は、それがどこにあっても客は来るものだ。文字通り満腹になって帰途についた。「ワンタンスープが1位だと思うな。」そんなことを呟きながら。

萬福楼                                                 南風原町津嘉山1467-4                                      098-889-2927

↓ 以後多数訪店。 焼きそばや他のメニューも食べたがワンタンスープとラフティ丼がやはり一番美味しい。しかし、そのワンタンスープも若干日によって味が違う。料理や日によって味にバラつきがあるようだ。

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コメント

思わず声を上げて、笑ってしまいました。映画を見ているような文章に読んでいて引き込まれました。 店も以前にウォーキング中、へえー!おもしろそうな店だなって言う外観で、これで美味しかったら笑っちゃうよな、たぶんダメだろうけど今度入ってみようかなと思ったことがよみがえり、またニヤリ。
絶対、食べに行きます! ビストロ悦も行ってみたいです。

投稿: みっちょん | 2007年6月11日 (月) 15時24分

宜野湾にあった頃からのファンの一人です。
久し振りに南風原で再会したのもつかのま、ご主人が急にお亡くなりになり残念に思っていたのですが、遺志をついで今は与那原に店舗がありますよ。

http://okiguru.seesaa.net/article/76820100.html

投稿: rio | 2008年1月 6日 (日) 19時13分

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